長期休職者における「年休5日取得義務」の判断指針
1. 相談の背景
相談者: 製造業の人事担当者
状況: 私傷病により療養中で、年度の全期間(または大半)を通じて休職し、傷病手当金を受給している従業員がいる。
悩み: 「年5日の年休取得義務」の対象者(年休付与日数が10日以上の労働者)に含まれているが、出勤の見込みがない。この場合でも、会社は無理にでも5日分を消化させる必要があるのか。
2. 本事例の課題
休職中の従業員に対して年休を取得させることは、以下の観点から実務上のリスクを伴います。
(1)傷病手当金との調整問題
年次有給休暇取得日は賃金支払日となるため、傷病手当金は支給調整の対象となりますので、制度を十分理解せずに年休を充当すると、従業員に不利益が生じる可能性があります。
(2)法的整合性の問題
年次有給休暇は「労働義務のある日についてその義務を免除する制度」です。休職期間中は労働義務が停止しているため、そこに年休を充当できるのかという法的整理が必要になります。
3. 解決に向けた法的根拠とアドバイス
労働基準法第39条第7項は、年10日以上の年休が付与される労働者に対し、使用者が1年以内に5日について時季指定を行うことを義務付けています。条文上、休職者を対象外とする明文規定はありませんが、厚生労働省のQ&A等では、年次有給休暇は労働義務のある日に取得するものであり、労働義務のない日については取得する余地がない旨が示されています。
ここで重要なのは、取得義務が消滅するのではなく、指定可能な日が存在しない場合には履行が不能となるという構造である点です。
■ 具体的なアドバイス
履行不能の原則:年休の時季指定義務は、あくまで「労働義務がある日」に対して行われるものです。休職中や産休・育休中で、履行期間(1年間)の全てを休業している場合、会社が時季指定を行うことは不可能であり、結果として5日未達であっても法違反には問われないことを説明。
復職後の対応:年度の途中で復職した場合は、その時点から年度末までの期間において、可能な範囲で取得を促す必要があります。
注意点:「休職しているから対象外」と一括りにせず、「取得できる日(労働日)が物理的に存在したか」を個別に判断することが重要です。
4. 解決の結果
- 運用の適正化: 無理な年休取得勧奨はせず、傷病手当金の受給を優先させることで従業員の経済的不利益を回避した。
- リスク管理の徹底: 労働基準監督署の調査が入った際も、厚労省の通達をエビデンスとして「義務違反ではない理由」を明確に回答できる体制を整えた。
- 担当者の不安解消: 「一律に5日取らせなければならない」という思い込みを払拭し、実態に即した柔軟な管理が可能となった。
💡 ワンポイント・アドバイス 復職が年度末に重なった場合などは、残りの期間で5日取得が物理的に困難なケースもあります。その際も、会社が取得に向けて最善を尽くしたプロセス(面談や記録)を残しておくことが、コンプライアンス上の守りとなります。
また、年休の年5日取得義務は単純な条文適用だけで判断できるものではありません。
休職制度、傷病手当金、就業規則の規定内容との整合性を含めた総合的な整理が必要です。
「この運用で本当に大丈夫か不安」「リスクに備えたい」などのお悩みがありましたら、ぜひ一度ご相談ください。実態に即した、無理のないコンプライアンス体制構築をサポートいたします。